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事業承継・引継ぎ補助金(経営革新事業)について解説

事業承継・引継ぎ補助金(経営革新事業)について解説

中小企業や小規模事業者が、事業承継やM&Aを行う際に利用できる補助金「事業承継・引継ぎ補助金」について解説します。事業承継・引継ぎ補助金は「経営革新事業」、「専門家活用事業」、「廃業・再チャレンジ事業」の3事業で構成されています。今回は引き継いだ経営資源を最大限に活用して経営力向上を図る「経営革新事業」について解説します。

※2023年9月15日に開示された7次公募の情報を基に解説しています。

事業承継・引継ぎ補助金「経営革新事業」の趣旨・目的

事業承継・引継ぎ補助金は、中小企業者が事業承継やM&Aを起点とした経営革新等に係る取組を行う際、経費(設備投資費、広告宣伝費等)の一部を補助する資金支援のことをいいます。この補助金制度は、中小企業者の事業承継や事業再編等を支援することで国の経済を活性化させることを目的としています。

経営革新に係る取組とは

経営革新とは事業承継を契機に行う新事業活動のことを指し、具体的には新商品の開発や生産方式の改善、新たな販売方式の導入によって経営力向上を図ることを言います。「経営革新事業」での申請を行う際には下記1~4を満たしている必要があります。

1.承継者により引継いだ経営資源を活用した取組であること

承継者が被承継者から譲受けた資産を活用した経営革新等事業を行う必要があります。実績報告時に、この点の確認が取れない場合、補助金の交付対象外になる可能性がありますので、申請する際には事業内容を十分に検討し、確認してください。

2.5年間の補助事業計画で生産性向上要件を満たす計画であること

事業計画書において策定した5年間の収益計画(補助事業期間を含む)は、指定された生産性向上要件を満たしている必要があります。経営革新事業等により適切に収益を生み出せる計画を作成する必要があります。

※生産性向上要件とは

「付加価値額又は1 人当たりの付加価値額の伸び率が 3%/年の向上を含む計画であること」を言います。なお付加価値額は「営業利益+人件費+減価償却費」で算出されます。生産性向上要件の達成状況については、補助事業終了後の事業化状況報告で事務局が確認を行いますので、計画時点で実現可能性の高い内容とする必要があります。

・生産性向上要件を満たしている場合の例

基準年度 1年後 2年後 3年後
営業利益 5,611,677 7,354,908 16,669,602 23,344,457
人件費 10,640,000 11,955,104 12,672,410 17,032,755
減価償却費 1,948,323 8,009,988 8,009,988 8,009,988
付加価値額 18,200,000 27,320,000 37,352,000 48,387,200
伸び率 50.10% 105.23% 165.86%

付加価値額の伸び率が 3%/年以上ですので、要件を満たします。

・生産性向上要件を満たしてない場合の例

基準年度 1年後 2年後 3年後
営業利益 156,848,572 158,848,572 158,850,572 159,850,572
人件費 85,107,357 85,107,357 85,107,357 87,107,357
減価償却費 7,045,964 8,994,287 8,994,287 8,994,287
付加価値額 249,001,893 252,950,216 252,952,216 255,952,216
伸び率 1.56% 1.58% 2.79%

付加価値額の伸び率が 3%/年未満ですので、要件を満たしません。

3.「デジタル化に資する事業」「グリーン化に資する事業」「事業再構築に資する事業」のいずれかを伴うものであること

実施する新事業は、経営革新的な事業であり、さらに以下のいずれかに該当する必要があります:「デジタル化に資する事業」「グリーン化に資する事業」「事業再構築に資する事業」。認定経営革新等支援機関による確認書をもって、事業内容がこの要件を満たしていることを証明ですることになります。

デジタル化に資する事業

下記要件に該当する取組である必要があります。単にデジタル製品を導入することやアナログデータを電子化するにとどまる内容は補助対象外です。デジタル化を通して既存の業務フローを根本的に見直し、改善する内容が補助の対象となります。

1 1.DX に資する革新的な製品・サービスの開発を行う

―AI・IoT、デジタル技術等を活用した遠隔操作可能なシステム等

2.デジタル技術を活用した生産プロセス・サービス提供方法の改善

―受発注業務のIT化やAIシステムによる業務プロセスの改善等

1.2のいずれかを行う事業計画を策定する必要があります。

経済産業省が公開する「DX 推進指標」を使いDX推進に向けた自身の現状について自己診断を行い、申請締切日までに独立行政法人情報処理推進機構 (IPA)に対して提出します。

DX推進指標(https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/dx/dx.html

自己診断結果入力(https://www.ipa.go.jp/digital/dx-suishin/about.html

3 独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「SECURITY ACTION」で「★」または「★★」の宣言を行っていることが条件です。

SECURITY ACTION 自己宣言(https://security-shien.ipa.go.jp/security/

グリーン化に資する事業

下記要件に該当する取組である必要があります。

1 1. 温室効果ガスの排出削減のための革新的な取組であること

―省エネ・再エネ効果に優れた製品やサービスの開発等

2. 炭素生産性向上を伴う生産プロセスやサービス提供方法の改善

―複数ラインの作業工程を集約することによる高効率化等

1.2のいずれかを行う事業計画を策定する必要があります。

2 事業場単位若しくは企業全体での炭素生産性を年率平均 1%以上増加する事業とする必要があります。
3 これまで実施してきた温室効果ガス排出削減の取組の有無を示します。取組を行ってきた場合は、その内容についても記入します。
事業再構築に資する事業

下記要件のいずれかに該当するものである必要があります。

新分野展開 1. 事業を行う中小企業等にとって、事業により製造する製品又は提供する商品若しくはサービスが、新規性を有するものであること

2. 事業を行う中小企業等にとって、事業により製造する製品又は提供する商品若しくはサービスの属する市場が、新規性を有するものであること

3. 事業計画期間終了後、新たに製造する製品又は新たに提供する商品若しくはサービスにより売上が見込まれるなど、事業性が認められること。

1~3のいずれにも該当する必要があります。

事業転換 1. 事業を行う中小企業等にとって、事業により製造する製品又は提供する商品若しくはサービスが、新規性を有するものであること

2. 事業を行う中小企業等にとって、事業により製造する製品又は提供する商品若しくはサービスの属する市場が、新規性を有するものであること

3. 事業計画期間終了後、新たに製造する製品又は新たに提供する商品若しくはサービスを含む事業により売上が見込まれること

1~3のいずれにも該当する必要があります。

業種転換 1. 事業を行う中小企業等にとって、事業により製造する製品又は提供する商品若しくはサービスが、新規性を有するものであること

2. 事業を行う中小企業等にとって、事業により製造する製品又は提供する商品若しくはサービスの属する市場が、新規性を有するものであること

3. 事業計画期間終了後、新たに製造する製品又は新たに提供する商品若しくはサービスを含む業種により売上が見込まれるなど、事業性が認められること

1~3のいずれにも該当する必要があります。

業態転換 1. 事業を行う中小企業等にとって、事業による新たな製品の製造方法又は新たな商品若しくはサービスの提供方法が、新規性を有するものであること

2. 製品の製造方法を変更する場合にあっては、製造される製品が新規性を有するものであること

3. 商品又はサービスの提供方法を変更する場合にあっては、提供される商品若しくはサービスが新規性を有するものであること又は既存の設備の撤去、既存の店舗の縮小等を伴うものであること

4. 取り組む事業の売上が見込まれるなど、事業性が認められること

1~4のいずれにも該当する必要があります。

4.その他の要件

補助対象事業は下記いずれにも合致しないことが条件です。

➀ 公序良俗違反

② 公的な資金の使途として社会通念上、不適切であると判断される事業

③ 国(独立行政法人を含む)及び地方自治体の他の補助金、助成金を活用する事業

―事業承継・引継ぎ補助金以外の補助金を用いて行っている事業は対象外です。同一の事業に対して複数の補助金を併用することはできません。また、重複した申請が認められる事業であっても、同一の補助対象経費に関する自己負担分を超えて補助金の交付を受けている場合は、補助の対象外となります。

―公的医療保険及び介護保険からの診療報酬及び介護報酬等との重複がある場合は補助対象外となります。

※③に該当可能性のある事業者は、提出書類「交付申請書(別紙)」にて、補助対象事業が③に相当しない旨を記入しその根拠を疎明する必要があります(例:本事業が指定保険医療機関・保険薬局等に該当しないことを明記する、既存報酬事業等を実施する事業所と異なる事業所で、設備機器を完全分離の上で事業を実施することなどを明記する)

補助対象者

補助対象者は日本国内に拠点又は居住地を置き、日本国内で事業を営む中小企業者等または特定非営利活動法人であり、かつ「事業承継の要件」を満たす必要があります。中小企業基本法上の小規模企業者や、物価高の影響等により、営業利益率が低下している場合などは、補助率が1/2以内から2/3以内へと優遇されます。

対象となる中小企業者等の定義

業種

定義

製造業その他 ・資本金の額又は出資の総額3億円以下の企業

・常時使用する従業員の数が300人以下の企業若しくは個人事業主

卸売業 ・資本金の額又は出資の総額が1億円以下の企業

・常時使用する従業員の数が100人以下の企業若しくは個人事業主

小売業 ・資本金の額又は出資の総額が5千万円以下の企業

・常時使用する従業員の数が50人以下の会社若しくは個人事業主

サービス業 ・資本金の額又は出資の総額が 5 千万円以下の企業

・常時使用する従業員の数が100人以下の企業若しくは個人事業主

補助率が2/3以内となる補助対象者の要件

下記のいずれかに該当する補助対象者については、補助率が2/3以内となります。当てはまらない事業者の補助率は1/2以内です。

1 中小企業基本法上の小規模企業者
2 物価高の影響等により営業利益率が低下している事業者

※直近事業年度及び交付申請時点で進行中の事業年度において

➀直近の事業年度と2期前の事業年度

②直近の事業年度及び交付申請時点で進行中の事業年度のうち、それぞれ任意の連続する3か月(当該期間の前年度同時期)の平均

➀、②の期間の営業利益率が低下している場合

3 直近決算期の営業利益または経常利益が赤字の者
4 中小企業活性化協議会等からの支援を受けており、公募申請時において下記いずれかに該当することを証明する書類を提出する事業者

➀再生計画等を「策定中」の事業者

②再生計画等を「策定済」かつ公募終了日から遡って3年以内に(令和2年11月17日以降)に再生計画等が成立等した事業者

小規模企業者の定義

業種 定義
製造業その他 従業員の数が20人以下の企業若しくは個人事業主
商業(小売業、卸売業)・サービス業 従業員の数が5人以下の企業若しくは個人事業主
サービス業のうち宿泊業・娯楽業 従業員の数が20人以下の企業若しくは個人事業主

対象となる事業承継の要件

対象となる事業承継は下記1~4を満たしている必要があります。

➀ 補助事業完了期限日から遡ること5年の間に(7次公募については2017年4月1日~2024年6月30日)

②事業を引き継がせる者(被承継者)と事業を引き継ぐ者(承継者)の間で

③M&A 等を含む事業の引き継ぎを行った又は行うこととし

④「創業支援型(Ⅰ型)」「経営者交代型(Ⅱ型)」「M&A 型(Ⅲ型)」いずれかの類型をとるもの

事業承継対象期間・補助事業期間 ※7次公募

補助対象となる事業承継・M&A、補助事業は以下の期間内に実施している必要があります。

事業承継対象期間 2017年4月1日~2024年6月30日

※経営者交代型(Ⅱ型 )のうち同一法人内の代表者交代での事業承継については、補助事業期間終了後の事業承継も補助対象になる場合があります。

補助事業期間 交付決定日~2024年6月30日

事業承継・引継ぎ補助金「経営革新事業」の累計

事業承継・引継ぎ補助金「経営革新事業」は、事業承継の種類により以下の3類型に分類されます。どの類型も物品・不動産等のみの承継(売買含む)は対象となりませんのでご注意ください。

創業支援型(Ⅰ型)

事業承継対象期間内に開業・法人設立を行うことが条件となります。引継ぎ対象は、設備、従業員、顧客等の「有機的一体としての経営資源」です。設備のみの引継ぎは「個別の経営資源」の引継ぎとみなされ、申請要件を満たさないので注意が必要です。

経営者交代型(Ⅱ型)

親族や従業員への承継により経営を引継ぎ、経営革新等に取組む法人の代表者交代が主な対象です。特定創業支援事業を受けている等、経営についての実績や知見を有していることが条件になります。承継者が法人である場合、事業譲渡や株式譲渡による承継は原則対象になりません。「同一法人内の代表者交代での事業承継」に限り未来の承継も補助対象になることがあります。

M&A型 (Ⅲ型)

株式譲渡や事業譲渡等のM&Aが対象になります(親族内承継は対象外)特定創業支援事業を受けている等、経営についての実績や知見を有していることが条件になります。株式譲渡の場合、被承継者は対象会社となります。

補助対象経費

事業承継に係る補助対象事業を実施するために必要な経費が対象となります。下記条件を全て満たしていることが前提となります。

1 使用目的が補助対象事業の遂行に必要なものと明確に特定できる経費
2 補助事業期間内に契約・発注を行い支払った経費

(補助対象経費の契約・発注が交付決定日以降2024 年6月30日までの間であり、支払いまでが同期間内に完了している経費のこと)

3 補助事業期間終了後の実績報告で提出する証拠書類等によって金額・支払い等が確認できる経費

事業費・廃業費の経費区分と概要

具体的な補助対象経費は下記内容になります。店舗等借入費、設備リースやレンタル料、広報費に関連する展示会への出展申込みについては、交付決定日以前に締結した契約であっても、交付決定日以降に支払った補助事業期間分の費用が例外的に対象となります。また、廃業費は「廃業・再チャレンジ事業」との併用申請した場合のみ補助対象となりますので注意が必要です。

事業費

経費区分 概要
店舗等借入費 国内の店舗・事務所・駐車場の賃借料・共益費・仲介手数料
設備費 国内の店舗・事務所等の工事、国内で使用する機械器具等調達費用
原材料費 試供品・サンプル品の製作に係る原材料費用
産業財産権等関連経費 補助対象事業実施における特許権等取得に要する弁理士費用
謝金 補助対象事業実施のために依頼した専門家等に支払う経費
旅費 販路開拓等を目的とした国内外出張に係る交通費、宿泊費
マーケティング調査費 自社で行うマーケティング調査に係る費用
広報費 自社で行う広報に係る費用
会場借料費 販路開拓や広報活動に係る説明会等での一時的な会場借料費
外注費 業務の一部を第三者に外注(請負)するために支払われる経費
委託費 業務の一部を第三者に委託(委任)するために支払われる経費

廃業費

廃業支援費 廃業に関する登記申請手続きに伴う司法書士等に支払う作成経費
在庫廃棄費 既存の事業商品在庫を専門業者に依頼して処分した際の経費
解体費 既存事業の廃止に伴う建物・設備等の解体費
原状回復費 借りていた設備等を返却する際に義務となっていた原状回復費用
リースの解約費 リースの解約に伴う解約金・違約金
移転・移設費用

(創業支援型、M&A型)

効率化のため設備等を移転・移設するために支払われる経費

※事業承継・引継ぎ補助金(7次)公募要領より

 

補助率・補助上限額

補助上限額や補助率は「創業支援型(Ⅰ型)」「経営者交代型(Ⅱ型)」「M&A 型(Ⅲ型)」共通しており、下記のように設定されています。補助下限額は100万円であり、その金額を下回る申請は認められません。補助事業期間内に一定の賃上げを実施した場合は、補助上限額が800万円となります。この場合、補助額の600万円を超え800万円以下の部分の補助率は1/2以内です。廃業費に対する補助上限額は150万円で、補助率は事業費に従うものとします。

条件 賃上げ 補助上限額 補助率
事業費

 

 

 

1. 小規模企業者

2. 営業利益率低下

3. 赤字

4. 再生事業者等

※1

 

実施

 

800万円 600万円超~

800万円相当部分

1/2以内
実施しない 600万円 ~600万円相当部分 2/3以内
1~4該当せず

 

実施 800万円 1/2以内

 

実施しない 600万円
廃業費(併用時) 150万円 事業費に従う(1/2若しくは2/3以内)

※1「補助率が2/3以内となる補助対象者の要件」参照

補助上限額の変更に関する賃上げ要件

補助事業期間内に一定の賃上げを実施した場合、補助金の上限額が800万円まで引き上がります。下記➀、②のいずれかを達成することが条件です。

➀ 補助事業期間終了時に、事業場内最低賃金が地域別最低賃金+30円以上の賃上げ

② ①を既に達成している事業者は、補助事業期間終了時に、事業場内最低賃金+30円以上の賃上げ

地域別最低賃金は交付申請日時点の最新の金額を基準とし、対象とする事業場は補助事業の実施場所(被承継者含む)となります。賃上げの達成状況については、実績報告時に支払期間の賃金台帳等で確認が行われます。その際に本要件未達の場合は、交付決定通知書に記した補助上限額が800万円から600万円に減額されることになります。さらに、補助事業終了後に提出する事業化状況報告書では、賃金台帳の継続的な提出を求められ、賃上げが継続されていない場合は補助金の返還を求める場合があるので注意が必要です。

まとめ

事業承継・引継ぎ補助金(経営革新事業)は、事業承継(M&A)を行う際に活用可能な補助金です。事業承継(M&A)において、設備投資費用や広告宣伝費が財務的負担となることが多いですが、この補助金を活用することでそれらの金銭的負担を軽減できます。また、経営革新事業は専門家活用事業との同時申請も可能であり、事業の状況に応じて2事業を併用する事で資金支援の効果を高めることができます。事業計画内容の審査・選考は「取組の独創性」「取組の実現可能性」「取組の収益性」「取組の継続性」などの観点から行われます。事業実施内容と実施スケジュールを明確にして、より収益性・継続性・妥当性の高い計画を策定することが必要になります。