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福祉医療機構の福祉貸付事業(WAM融資)とは?申請手順や流れについて解説
独立行政法人福祉医療機構(WAM)が実施している融資制度「福祉貸付事業」について解説します。福祉貸付事業は、介護施設や障害者施設等、社会福祉施設の設備の建築費や備品設備等にかかる投資に対する融資です。申請要件を満たし、審査を通過した事業者は「長期・固定・低利」で融資支援を受けることが出来ます。
WAM融資(福祉貸付事業)の目的
福祉貸付事業は、介護サービス基盤の整備、待機児童解消のための保育所整備など、地域社会を取り巻く環境を整備する目的で行われている融資制度です。
「長期・固定・低利」の内容
WAM融資の大きな特徴は「長期・固定・低利」で融資を受けることが出来る点です。これにより事業者は金銭的負担を軽減しつつ事業を行うことが出来ます。具体的な内容は下記の通りとなります。
長期
事業の内容によって最長30年と設定されています。借入金の元金返済を長期間の分割で行うことで、1年あたりの元金返済金額を圧縮し、財務上のキャッシュ・フローの負担を軽減することができます。
固定
貸付利率は融資を受けた時の内容で固定されます。このことで、借入時にその期間内の返済計画(元金と利息の支払い)を確定ことができます。借入後の金利の上昇リスクを避け、計画的な施設経営を実現することが可能になります。
低利
金利は、年0.800%~1.900%と低く設定されています(令和5年11月1日時点)独立行政法人福祉医療機構はその貸付原資を主に国から調達しているため、このように貸付利率を低く設定することが可能になります。社会福祉施設の収入が公定価格(介護報酬や診療報酬等)によって定められている状況において、支払利息の負担を低く抑えることは継続的な施設経営におけるリスクを軽減することに繋がります。
対象となる事業・法人格
介護施設や障害福祉説など社会福祉施設が融資の対象となります。事業内容ごとに対象法人が異なるので注意が必要となります。
主な対象施設・事業・法人格(一例)
対象施設・事業 | 対象者 | |
高齢者福祉 |
・特別養護老人ホーム
・小規模多機能型居宅介護事業所 ・認知症高齢者グループホーム ・老人デイサービスセンター 等 |
・社会福祉法人
・日本赤十字社 ・医療法人 ・一般社団法人 |
・小規模多機能型居宅介護事業所
・老人デイサービスセンター ・認知症高齢者グループホーム 等 |
・営利法人
・NPO法人 等 |
|
児童福祉分野
母子・父子福祉分野 |
・保育所
・障害児通所支援事業 等 |
・法人 |
・助産施設
・児童養護施設 ・障害児入所施設 等 |
・社会福祉法人
・日本赤十字社 ・一般社団法人 等 |
|
障害者福祉分野
|
・就労移行支援事業所
・就労継続支援事業所 ・共同生活援助事業所 等 |
・法人 |
・地域活動支援センター
・一般相談支援事業 ・特定相談支援事業 等 |
・社会福祉法人
・医療法人 ・一般社団法人 |
|
生活保護・その他
|
・救護施設
・更生施設 等 |
・社会福祉法人
・日本赤十字社 |
・日常生活支援住居施設 | ・NPO法人
・一般社団法人 ・労働者協同組合 等 |
融資対象経費と融資限度額
対象経費は施設建物の建設資金、設備備品の購入費、土地取得資金および経営に必要な資金となります。事業内容に応じて融資の限度額が異なります。具体的には、下記のうち低い金額が融資限度額となります。
1 (基準事業費 - 法的・制度的補助金)× 融資率
2 担保評価額 × 70%(代理貸付の場合は80%)
基準事業費
基準事業費については下記の通りです。「設置・整備資金」「経営資金」と使用用途ごとに分かれます。
≪設置・整備資金≫
〇建設資金・設備備品整備資金
※基準事業費は、「機構基準費の合計額」「実際事業費の合計額」で算出した額のうちのいずれか低い額です。
種類 | 対象経費 | 基準事業費 |
建築資金
―新築 ―改築 ―拡張 ―改造・修理 ―購入 ―賃借 |
・建築工事費
―大型設備等工事費、特殊工事費に該当しない一切の工事費 |
定員1人(1施設)当たりの基準単価 × 利用人数(施設数) |
・大型設備等工事費
―介護用リフト、自家発電設備、給水設備等の整備に要する費用 |
福祉医療機構が必要と認めた額 | |
・特殊工事費
―解体撤去工事費(既存建物の解体、撤去工事の費用) ―仮設施設整備工事費(仮設施設の建築工事の費用) |
福祉医療機構が必要と認めた額 | |
・設計監理費
―建物の設計及び監理に要する費用 |
上記基準事業費に係る建築工事費、大型設備等工事費及び仮設施設整備工事費の 5% | |
設備備品
整備資金 |
・機械器具、備品の購入 ・取付工事等に要する費用 |
(設備備品整備資金単独での申込の場合)
定員 1 人(1 施設)当たりの基準単価 × 利用人数(施設数) |
〇土地取得資金
対象経費 | 基準事業費 |
施設の用に供するための土地の取得に要する費用 | 実際土地取得単価×融資対象建物の建築確認上の延床面積× 3 倍
(実際土地取得面積が融資対象建物の建築確認上の延床面積× 3 倍に満たない場合、実際土地取得費が基準事業費となります。) |
※2025年度までの措置として、地域医療介護総合確保基金等における「定期借地権利用による整備促進特別対策事業」の対象となる「一時金」を土地の取得に要する費用に含めます。
※土地の買い増しの場合は、当該施設で既に使用している土地を含めた「延床面積×3倍」が融資可能な土地取得面積となります。
※先行して土地を取得するために融資を利用する場合、取得地での建物整備を伴う場合に限ります。
≪経営資金≫
対象経費 | 基準事業費 |
施設又は事業の経営に必要な資金 | 実際事業費の額 |
※特定有料老人ホームは対象外です。
定員1人(1 施設)当たりの基準単価については、独立行政法人福祉医療機構のホームページをご参照ください。
参考:2023年度 福祉貸付事業 融資のごあんない(パンフレット)
法的・制度的補助金
福祉医療機構が定める補助金のことです。事業者の状況により内容が異なります。詳細は独立行政法人福祉医療機構のホームページをご参照ください。
参考: 2023年度 福祉貸付事業 融資のごあんない(パンフレット)
融資率
融資率は実施する事業の内容により異なります。下記は一例です。
区分 | 80% | 75% | 70% |
高齢者
福祉分野 |
・養護老人ホーム | ・特別養護老人ホーム
・小規模多機能型居宅介護事業所 ・老人デイサービスセンター |
・老人介護支援センター
<代理貸付にかかる事業> ・小規模多機能型居宅介護事業所 ・老人デイサービスセンター |
児童福祉分野
母子・父子 福祉分野 |
・保育所
・障害児入所施設 ・障害児通所支援事業 ・障害児相談支援事業 |
・助産施設
・児童養護施設 ・児童自立支援施設 ・地域子育て支援拠点事業 |
・母子・父子福祉センター
・母子・父子休養ホーム ・乳児家庭全戸訪問事業 |
障害者
福祉分野 |
・障害福祉サービス事業
・障害者支援施設 ・一般相談支援事業 |
・福祉ホーム
・身体障害者生活訓練等事業 ・手話通訳事業 |
・身体障害者福祉センター
・補装具製作施設 ・盲導犬訓練施設 |
生活保護・
その他 |
・救護施設
(老朽整備事業) ・認可外保育施設 |
・救護施設
・更生施設 ・更生保護事業 |
・特定有料老人ホーム |
融資限度額の具体例
〇障害者グループホーム(定員10名)が、建築資金・設備備品整備資金で施設の新築工事を行う場合(大型設備等工事、特殊工事なし)
1 | 87,000,000円(基準事業費 - 法的・制度的補助金)× 80%(融資率)= 69,600,000円 |
・基準事業費
97,000,000円(定員1人(1施設)当たりの基準単価)× 1(施設数)
・法的・制度的補助金
10,000,000円(公益財団法人日本財団助成金)
・融資率
80%(障害福祉サービス事業)
2 | 80,000,000円(担保評価額)×70% = 56,000,000円 |
・担保評価額 80,000,000円(不動産評価額×担保掛目)
上記、1.2のうち、低い金額が融資限度額になります。
この場合は56,000,000円です。
金利
下記は令和5年11月1日現在の利率表(~15年以内 固定金利)です。借入期間が15年でも1.100%~1.600%と一般の金融機関よりも低金利での借入が可能になります。
設置・整備資金
施設・事業の種類 | 10年以内 | 10年超
11年以内 |
11年超
12年以内 |
12年超
13年以内 |
13年超
14年以内 |
14年超
15年以内 |
社会福祉事業施設 | 0.800% | 0.900% | 0.900% | 1.000% | 1.000% | 1.100% |
介護関連施設 | 0.900% | 1.000% | 1.000% | 1.100% | 1.100% | 1.200% |
養成施設 | 1.000% | 1.100% | 1.100% | 1.200% | 1.200% | 1.300% |
有料老人ホーム・サービス付き高齢者向け住宅 | 1.300% | 1.400% | 1.400% | 1.500% | 1.500% | 1.600% |
認可を目指す認可外保育施設・企業主導型保育事業 | 0.800% | 0.900% | 0.900% | 1.000% | 1.000% | 1.100% |
経営資金
社会福祉事業施設・介護関連施設・在宅サービス事業等 | 5年以内 1.100% |
社会福祉法人の経営の高度化に必要な資金 | 10年以内 0.800% |
感染症等対応資金 | 10年以内 0.600% |
物価高騰対応資金 | 7年以内 0.700% |
※保証人不要制度を利用する場合は 、上記金利に加え「+0.050%」 となります。
融資の流れ
WAM融資は「融資相談」「借入申込」「借入申込受理」「融資審査」「貸付契約・資金交付」「完成報告」の順に手続きが進みます。以下、順を追ってポイントを説明します。
融資相談
申込の前に下記窓口に対し、事業内容を基に融資相談を行います。
東日本での施設開設 | 西日本での施設開設 | NPO法人 |
福祉医療貸付部 福祉審査課 融資相談係 | 大阪支店 福祉審査課 融資相談係 | NPOリソースセンター NPO支援課 |
融資相談の際に必要な書類
書類 | 備考 |
融資相談票 | 整備計画、資金計画を記入 ※独立行政法人福祉医療機構ホームページからダウンロード可 |
決算書 | 直近2ヶ年分 |
残高試算表 | 前期決算日から半年以上経過した時点での融資相談の場合 |
収入支出償還計画表 | 開設後の収支予想 |
計画敷地の公図
住宅地図 履歴事項全部事項証明書 |
事業実施の確実性の検証 |
計画建物の配置図・平面図 | 建築規模の妥当性・必要性の検証 |
役員一覧 | 法人新設の場合。母体法人がある場合はその概要がわかる資料 |
並行別計画がある場合の
関係資料 |
事業実施の確実性や法人運営の健全性の検証 |
法人パンフレット等 | 事業内容や、法人運営状況が分かるもの |
借入申込
借入申込書(※独立行政法人福祉医療機構ホームページからダウンロード可)に管轄都道府県市等からの意見書など添付、借入申込みを行います。借入申込書提出の目安は「事業計画にかかる工事請負契約(入札が必要な場合は入札執行日)」および「土地・建物売買契約締結」の1カ月前です。
借入申込受理
申込の手続きが完了後「借入申込受理票」が郵送されます。「借入申込受理票」が届くまでは事業計画にかかる契約や着手を行ってはいけません(設計・監理にかかる業務委託契約についてはこの限りではありません)また、工事請負業者等への支払いは銀行振込で行います(現金支払いは原則融資対象外です)
融資審査
融資審査には1カ月前後の時間がかかります。審査の結果、融資条件が付される場合や、借入額の減額、融資審査を通過できない場合があります。また、承認された場合でも、取り消し要因に該当した場合は内定取り消しになる事があります。
貸付契約・資金交付
資金交付の希望時期に合わせて貸付契約の締結や抵当権設定の手続き等を行い、抵当権設定後に資金が交付されます。手続きには3カ月程度必要になりますので、状況に応じて他金融機関からのつなぎ融資の活用を行います。
完成報告
融資対象事業完成後3カ月以内に、融資対象物件の画像や検査済証、交付決定通知書を添付し「事業完成報告書」を作成、福祉医療機構に提出します。「建築工事費や設備備品費の減額による貸付金額への影響」「補助金等の増額による貸付金額への影響」「福祉医療機構以外の借入金の増額による償還計画への影響」「職員等の確保や入居者受け入れの状況(特に創設法人の場合)」などが確認事項です。
まとめ
WAM融資は、実施主体である福祉医療機構が貸付原資を主に国から調達しているため、「長期・固定・低利」での融資支援が可能となります。民間金融機関の融資と比較して金銭的な負担を軽減できることが最大のメリットです。融資の審査の際は「法人運営の健全性」や「事業計画の妥当性」、「現在・将来の資金繰りの確認」など、様々な着眼点から事業の検証を行います。融資を申請する際には、これら審査の観点を考慮しながら準備を進めると良いでしょう。